(垣本、板付き。舞台上手側のレジでエプロンを着て立っている)
垣本「新発売のポクポクチキン、ただいま揚がりました~!
……って、誰もいないところでは普通に言えるんだよなー。今月ずっと深夜勤だから言うチャンスもないし。
まあゆっくり棚卸し出来たしそこはいいんだけど」
中村(舞台下手から普通に入ってくる)
垣本「いらっしゃいませ~!」
諸福(舞台下手からボストンバッグを持ち、右足と右手を同時に前に出す歩き方で入ってくる)
垣本「いらっしゃいませ~!」
(中村、雑誌を物色しているが、諸福は明らかに挙動不審な様子で商品を棚に取ったり戻したりしている)
垣本「新発売のポクポクチキン、ただいま揚がりました~!」
(少しの間)
中村「いや、明け方の3時の声量ちゃうな。あと3時に揚がるのスケジュールおかしない?」
諸福「お、お、お、おい!!!」
垣本「なにかございましたか」
(諸福、ボストンバッグからナイフを手にレジの垣本につきつける)
諸福「ご、ご、ご、強盗じゃ!手を挙げろ!!!!」
(垣本、黙って手を挙げるがとくに怖がる様子がない。中村、レジ側に近づいていく)
中村「え、キミ分かってる?他の客おるねんで?」
垣本「わ~強盗だ~」
諸福「お前はしゃいでんちゃうぞ!逆らったら死んでまうぞ!」
中村「いやいやあり得へんって。ワシ撮影でもしてたらどうすんねん」
諸福「おい撮影はすなよ!!!!」
中村「言われて気づいてるやん。もう確実に失敗見えてるでしょこれ」
垣本「助けて~」
諸福「ちょっとは焦れや!!」
中村「ほら監視カメラとか」
諸福「おい監視カメラ止めろ!!通報すな!通報すなよ!!」
垣本「怖~い」
中村「そもそも監視カメラとか店員に言うて止まるもんちゃうねん」
(中村、拳銃を取り出し舞台右上、左上に向けて打つ。銃声二発)
中村「こう止めんねん」
諸福「エーッ!!!!!聞いてないよそんなの!!!!」
中村「何が聞いてないや。こっちもお前がそんなアホやるとは聞いてないんじゃ」
垣本「あっこれはー本当に怖いやつだ!!!」
中村「ほらやっぱり舐められとんやないか。包丁仕舞え」
(中村、諸福に拳銃を向けて包丁を左手のボストンバッグに仕舞えとモーション)
諸福「それとこれとは話が別ですけど」
中村「チッ。ヘタレのくせに言いよるな。ここはワシが先に目付けてた店や」
諸福「どういうことですか?」
中村「この時間ちょうど店員は一人、幹線通りから一筋入った裏路地のコンビニの上、
ドミナント出店で人は幹線通り側の別のコンビニに吸い込まれる。
おまけにこの周辺には交番も無い」
諸福「そこまで考えていたら、なんかカバンとか……」
中村「銀行強盗とちゃうねんからそんなでっかいカバンなんていらんわ。大概ここの売上は一日数十万ってとこやろ。これで十分や」
(中村、ポケットから小さい包みを出して広げる)
諸福「スヌーピーのエコバッグだ……」
中村「ここの店にある金が入ればなんでもええねん」
垣本「17万5千180円、釣銭準備金が9万5千円、占めて27万180円」
中村「ほら見い。ってお前、なんで金額言うたん?」
垣本「私がきょう盗もうと思っていたお金だからしっかり覚えています」
中村「は?」
諸福「おい、……君、泥棒なんてやめておきなさい」
中村「お前が言うな!」
垣本「私は大学の4回生だけど、コミュニケーション力が無いと言われ続けて就職が決まらず、
そんな中でうちのバカ店長に深夜勤のシフトばかり入れられ、もうこの店にほとほとウンザリしている。
だからこのレジ金を盗んで飛ぼうって」
中村「残念やったな。辞めるんならまっとうに辞めることや」
諸福「親御さんも悲しむぞ」
中村「どのスタンスで言うてる?」
垣本「なのでふたりとも強盗はやめてください」
中村「そうはいかんぞ。お前、俺たちが武器持ってること忘れてるやろ」
諸福「そうだそうだ!」
垣本「待ってください。私がいつ武器を持ってないって言いました?」
諸福「おいお前も持ってんのかよ!もう助けてくれよ!!!」
中村「いやそんだけビビるんやったらもう帰ったほうがええんちゃう?」
(垣本、スイッチのついた箱を取り出す)
垣本「えー、爆弾です」
中村「マジかこいつ」
垣本「監視カメラを壊すにはどうするか。カメラ自体を壊すのに加えて、バックヤードの録画データもなんとかして消さないといけない。
これ、店ごと吹っ飛ばすのが一番手っ取り早いんですね」
諸福「一番ヤバいじゃんこいつ」
中村「兄ちゃん、言っとくけどな、どういう爆弾かしらんけど、現住建造物放火、爆発物取締法はどっちも重罪やぞ。30万程度のはした金と釣り合うんか」
垣本「それに関しては100%ミスりました」
諸福「認めちゃったじゃん」
垣本「ただ、強盗犯二人に武器を突きつけられているような状況であれば、もうこれは正当防衛として爆発させても仕方がない」
諸福「なるほど!!」
中村「いやなるほどなわけないやろ」
諸福「なんとか命だけは助けてください……」
中村「お前数分前なんて言うてたか覚えてる?」
垣本「金を盗まずに全員巻き込んで死ねば、罪も償えますね~」
中村「お前ずっと一番ヤバいぞ?大丈夫?」
諸福「店員さん。実は僕も大学生、だったんです。3年前まではね。
4回生で就職できなかった僕は5回生になって、それでも就職できずに卒業したんです」
中村「そういう話あるの?」
諸福「しばらくバイトで食いついないでいたけど、先週クビになった上にパチンコで全財産無くなりました。
ついでにブチギレて全力で騒いでたら、大家さんから部屋を追い出された。これが今の姿です」
中村「えっ、全然美談じゃない」
垣本「あなた私のことなめてるんですか?」
諸福「すみません、なめてません」
中村「説得力なさすぎるわ」
垣本「あなたもですよ」
中村「え?」
垣本「えいっ」
(垣本、箱についたスイッチを押す)
諸福「ウワーッ!!!!!」
中村「やめろお前!!!! ……あれ?」
諸福「爆発しないじゃん」
垣本「時限式です。あと2分でこの店は火の海になる」
中村「確実に押しよったな」
諸福「映画とかマンガだったら解除スイッチとか……ああいうのあるんじゃない?」
垣本「そんなものわざわざ作るわけないでしょう。私なんかどうなってもいいんだから」
諸福「じゃあもうお金持って逃げましょう」
垣本「スイッチを押した後は自動ドアがロックするようプログラムしました」
中村「なんでお前ずっとヤバいねん。就活追い詰められすぎやろ」
垣本「恐縮で~す」
諸福「みんなで9万ずつ持ち逃げしたらハッピーじゃない!?
いま僕が思いついたから端数もらっていいよね」
中村「いま思いついてもどうしようもないこと言うな。あと180円儲けようとすな」
垣本「180円で今、ちょうど熱々のポクポクチキンが食べられますよ」
中村「セールストークすな。ポクポクチキンどころかポクポクチーンやないか」
(諸福と垣本、嬉しそうに中村を指差す)
中村「いらんいらん!そんなんいらんわ死に際に!!」
(遠くからサイレンの音)
諸福「あれっ……」
中村「お前まさか」
垣本「そうです。これは爆破スイッチではなく通報用スイッチです」
中村「なめたことしやがって……」
諸福「最悪だよもう」
中村「(諸福に向かって)お前、逃げるぞ。これパトカー1台の音と違う、こんだけ来てたら顔覚えられるだけで厄介や」
諸福「僕も逃げるんですか?」
中村「ええから来い、走って来い。証拠になるからナイフとバッグ絶対落とすなよ。
暇なんやったら知り合いのテキ屋でも手伝わしたる。行くぞ!」
(中村、諸福、舞台上手に走ってハケる)
垣本「ありがとうございました~。
……あ、いらっしゃいませ~。皆さんお揃いの制服でようこそ。
新発売のポクポクチキン、ただいま揚がりました~!」
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